鳩狼 -ハトロウ- (高橋晋平)

目が覚めると、窓のない部屋にいた。コンクリートで冷たく打たれた壁に覆われた、ドラマか映画で見たことがあるような灰色の部屋。

状況は全く飲み込めない。ゆっくりと、一つ一つわかってきた周辺の状況。

僕は椅子に鎖で縛りつけられている。そして、両腕も縛られ、手と指をがんじがらめにした細い鎖で、スマホが固定されていた。

周りには、見たこともない男性・女性が、おそらく全く同じ状況で縛り付けられている。恐怖で震えている人もいれば、すべての感情を失っているように見える人もいた。

突然、天井の方から、機械のように加工された声が聞こえた。

「ようこそ、諸君。」

みんな、驚くほど動きが少ない。少しビクッとする人もいたが、すぐに動かなくなった。

「ここに集まってもらったのは、他でもない。今から、ゲームをしてもらう。君たちはこのかつてない斬新なゲームのβ版の一部とでもいうべきか。ご協力ありがとう。今から言うルールをよく聞き、8人で仲良く会話をしながら進めて欲しい。」

8人。そう言われて周りを冷静に見ると、自分以外には7人の人間がいた。普通に見ると、女性が3人、僕も入れて男性が5人、だろう。

「君たち8人は、一見すると人間だ。しかし、この中に2人、<鳩狼>と呼ばれる、恐ろしい怪物が姿を変えて紛れ込んでいる。この鳩狼を見つけ出し、追放しなければ、君たち人間の命はない。この<命はない>は、本当の意味で、だ。この部屋にはある物理的変化が起こり、全員が確実に死ぬ。しかし、2人の鳩狼を正確に暴き出すことができれば、人間である6人の命は助けよう。その場合、2人の鳩狼は死を迎えることになる。どちらかが生き残るのだ。そして、鳩狼は、すでに自分がそれであることを知っている。」

僕は、まだ冷静になり切れない自分の頭を懸命に働かせながら、思った。

人狼だ。会話ゲームとして有名な人狼。

そしてようやく気が付いた。僕らが囲んで座らされている円卓の中央に、白い鳩時計があった。

天の声は続く。

「君たちの手には、スマホが括り付けられているね。この画面に表示されている丸いボタン。これを1回押すと、君たちの目の前にある鳩時計が1回鳴く仕組みになっている。この鳩時計が8回鳴いた時点で、君たちの中の6人の人間は、死ぬ。ただし、この中に潜む怪物<鳩狼>が誰かわかったものは、その時点で、鳩狼の名前をコールして良い。それが正解であれば、瞬時に人間たちの拘束は解かれ、君たちは自由の身となる。また、8回以上鳴いた時点から、30秒間の間に、人間の誰かが2人の鳩狼の正体を正確にコールできた場合も、命は助かる。」

なるほど、すべてではないが、理解できたような気がする。

ここにいる僕ら全員、目を背けたくてもなかなか難しい状態で、手にスマホを縛り付けられ、その画面は目の前にある。そして、唯一自由に動かせる親指が、画面に表示されているボタンの前に位置している。変な気を起こせば、今にもボタンを押すことなど容易だ。

この8人の中に、鳩狼が2人いる。そいつらは、ボタンを8回押せば生き延びる。

でも、そもそも、ここにいる鳩狼は、このゲームを始めている狂人の仲間なのか? それとも、僕と同じように、無関係に連れてこられたごく普通の人間なのではないか? そうだとしたら、そんな人間を死に追いやってもいいのか??

突然、けたたましいサイレンが部屋中に鳴り響いた。

「開始だ。」

天の声が、おそらく始まりの合図を告げ、それ以降、10秒ほど、誰も言葉を発することはなかった。

突然、一人の男性が叫んだ。

「嫌だ! 俺は死にたくない…! 助けでくれっ!!」

その後の静寂。今度は女性が言う。

「とりあえず、目を離した隙に、鳩狼が親指を動かさないように、それぞれ監視するってか。」

何人かがキョロキョロし始めた。次の瞬間、













パッポ



パッポ



パッポ



パッポ



パッポ



パッポ






・・・・・・・・・・・・・










おそらく5,6秒だったと思う、が、時間以上に長く深く、ぞっとする沈黙が流れた。

「6回鳴いた。鳴かされた。」

「誰よ! 誰が押したのよ!! 全く見えなかったわ!! トリックじゃない!? こんなゲーム、最初からプログラムされて完全に仕組まれてたのよ。私たちは殺されるんだわ!!」

「聞いてくれ!とにかく、全員が右隣の人間を監視するんだ! そうすれば誰も動くことはできないはずだ!!」

僕はこのやりとりが怒号で続く中、うまく考えられず、それでも状況だけは察し、心臓が恐怖に縛られたようだった。

あと2回ハトが鳴くと、人間は死ぬ。――

                                つづく








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