「Fuunh!」、「Unhhh!」
アルルの空の下の柔らかな木漏れ日の下で放たれたボールは、曲線と直線の線を幾重にも描き、丸い球体を変形させながら互いのコートを行き来している。緑がかった空と赤みのあるクレーのコート、白いテニスウェア、黄色いテニスボールとソプラノとメゾアルトの女の声。
「Fuunh!」、「Unhhh!」
2人の女子テニスプレイヤーがショットのたびに放つ叫び声が、スタジアムの中にこだまする。全身をしならせボールをミートする瞬間に発せられる2人の声。その声は、獰猛で、しかし、官能的だ。
「Wuunh,Nooo!」
美しい白人の女子プレイヤーのショットが白線をわずかに外し、叫び声とも言葉ともならない声を出す。
「Yeah〜eeeeS!」
逞しい二の腕を持つ黒人プレイヤーが、ビックほどもある手を握りしめガッツポーズをした。
「Game!Serena」
ジャッジがコールすると2人のプレイヤーは、お互いのベンチに向かって歩き出す。2人がコート脇のベンチに腰を下ろすとスタジアムは、ゆるやかな静寂に包まれる。小高い丘にある10月のアルルのスタジアムに風がゆるやかに舞う。
PopPop♪
美しい白人女性プレイヤーのバックの中から、音が響いた。
「What?」
滴り落ちる汗をタオルで拭いていた黒人プレイヤーが、その手を止め、隣のベンチに視線を動かす。
PopPop♪
筋骨逞しい黒人女性プレイヤーのバックからも音が響く。ボールガールとの話をしているジャッジには、その音が聞こえていないようだ。
サングラスをはずす2人。交差する瞳。
ブルーアイズ、ブラックアイズ。
かすかなに緩むレッドリップス。
「Game・On!」
ジャッジのゲーム再開の声がスタジアムに響く。
コートに向かって歩き出す2人。
トントン、トントン。
白人プレイヤーがボールを3度ほど地面にバウンドさせると頭上に放り上げる。
「Unhhha!」
ラケットを持ち上げ、思い切り振り下ろす。
PopPop♪
ベンチから、また鳩の鳴き声がする。
「Unhhh!」
黒人女性プレイヤーがバックハンドでボールを打ち返す。
PopPop♪
どこか遠くの海で、鳩の鳴き声が聞こえたような気がした。
「Fuunh!」、「Unhhh!」
アルルのスタジアムに、また、女たちの声が響き渡っていた。<了>
登場人物
レモン/カール・ルイス
オレンジ/中田英寿
キウイ/セードルフ
メロン/前田耕陽
ストロベリー/セリーナ・ウィリアムズ
ピーチ/リア・ディゾン
グレープ/シャラポワ
HATO小説部
OQTA HATOの小説をみんなで書き、出版を目指す部活です。
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