ファンファーレ(菊池)


数学教師である私が

今まさに保健室の鍵を締めようとしているという状況に

興奮を抑えられない


先生、あなた最近怠りすぎじゃない?


そんなことないよ

ほら、ちゃんと押してるじゃん

ほらほら


うそぉ?

....

ほら、午後の回数が明らかに少なくなってる


もう生徒たちは受験が始まるし

知らぬ間に教師としての使命が先立ってるのかもなあ

ハハ...


ねえ...

ンッ...


唇の重なりを道連れに

2人は純白のベッドに身を投じた

背徳感を忍ばせた快楽という翼を与えられ

存分に大空を漂えるこの瞬間だけは

自分が何者かを忘れてしまう



そして私たちは 事を終えると

おざなりの優しさを見せつけ合い

またいつものフレーズを囁く



明日の朝も ちゃんと鳴かせてよね


うん わかってる

愛してるよ



周囲を気にしながら おそるおそる外界に飛び出す私を

あの鳩は蔑んだ目で見ているのだろうか

その問いが持つ寿命は 保健室を出て3秒限りだ


愛する家族を想い 夢中でボタンを押す

何回押したかなど些末な問題だ

そんな自分を愛せるのは 自分くらいってなもんだ


夕暮れ時

我が家に鳴り響くファンファーレは

勇ましさに欠けているのかもしれないが

私の知るところではない


物憂げな橙色に染まる相棒に身を投げ込むと

エンジンのスイッチを入れ

迷いもなくアクセルを踏み込んだ

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HATO小説部

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