さよならをいう気もない(きよぴ)

ついさっき、8年連れ添った妻が出ていった。

出ていく直前、妻が放った言葉は『あなたはいつも自分のことしか見えていない』だった。

オレは、今まで浮気もしたことがないし、ギャンブルもやらない。まじめに家庭を思って働いてきたのに、なぜこんな仕打ちを受けなければならないのだろう。

しかしオレの反論は彼女の耳に届かなかった。ときにはニヒルな笑みさえ浮かべて、てきぱきと身支度を整え妻は颯爽と出ていったのだ。


『まじか…』


ひとりとり残された部屋で声に出してつぶやいてみる。そんな作業を通して、いまこの状況を俯瞰したいような衝動にかられた。


別に夫婦仲は悪いわけじゃなかった。むしろある時までは順調だったはずだ。もとはといえばオレに惚れて結婚したクセに、、。出ていく時の、あの後ろ姿の未練の無さはなんだ。妻に代表される女という種族全体を呪い、玄関の扉越しに邪悪な念を送った。


オレは悪くない。


悪くはない、、が、、ただもし、、ひとつオレに”非”というものあるならば、妻とのコミュニケーションが若干屈折していたかもしれない。結婚してからオレから愛情表現らしいことをしたことがないのだった。婚姻契約を結んだのに、愛情表現を女性に求められるまま応えるのはおかしいだろう、というのがオレの哲学だ。父親が熊本生まれ、、、、というのは関係ないかもしれないが。


例えば日常会話のLINEのやりとりはこんな感じである。

 

オレ あついなあ

妻  あついね、今日猛暑になるって

オレ 暑いから、ぎゅー

妻  ♡

オレ どん

妻  ヲイ💢


例えば出張先のオレと妻と


妻  起きれた?

オレ おはよーのちゅー 

妻  なによ💦

オレ いんがむ

妻  コロス💢


こんなの日常茶飯事、オレは妻に一度も面と向かって「愛している」とか「好き」とか口に出して行った試しはない。たまにそのことに言及されると(ネタフリが!!)と思って張り切ってしまい、三倍で返すように。しまいに妻は何も言わなくなってしまった。


べつにふざけて困らせたいわけじゃなかった。


愛というのに照れてただけだし、妻の真っ直ぐな表現に正面から向きあえなかっただけだ。時々ブサイクとかおばさんとかコミュニケーションの合間に挟み込んで子供じみたイジワルをして、妻の愛を試してみることもあった。


ひとりになって考えてみると、我ながら罪深い気もしてきた。


とはいえ、今回の妻の行動は衝動的なものかもしれない。


どうしたものか。冷えた缶ビールを片手に考えてみた。すぐに電話をして妻の様子伺いをするのもなんだか負けを認める気がして悔しい気もする。とりあえずLINEを立ち上げてみたが、どんな内容の文章を書けば、自分のプライドも保たれつつご機嫌を伺えるのか。。しばらく逡巡したが答えは見つからなかった。当たり障りのないLINEスタンプを探したが、、適当なものがない。


そうして3時間が経った。


妻から連絡はない。


事故にあったかもしれない。さすがに心配になって電話をかけてみたが、着信拒否の設定がなされていた。



Facebookはどうなってる?


既にブロックされていた。instaもTwitterもぜんぶ。

!!!


保険証や通帳は、、、、、、、ないwwww


その瞬間、部屋に設置してあるHeart Clock HATOがやぶれかぶれのように鳩が5回鳴いた。


🐦🐦🐦🐦🐦


オレは光の速さで家を飛び出していた。


<つづく>

1コメント

  • 1000 / 1000

  • Yosuke

    2018.07.17 12:19

    阿久悠 meets きよぴ LINE小説

HATO小説部

OQTA HATOの小説をみんなで書き、出版を目指す部活です。