うちは、貧乏だ。うちにはHATOがない。今どきHATOがない家なんてクソだ。学校のHATO連絡網でも、僕のうちだけ電話連絡にさせられている。超ダサイ。
HATO連絡網。それぞれの家にあるHATOに、出席番号順に一方通行で友達を登録していて、HATOが決められた回数鳴いたら、前の番号の人が押したという確認になり、次の人のHATOを鳴らしていくという仕組みだ。
例えばうちのクラスは、出席番号1番が相川一郎君。出席番号2番が遠藤晴子ちゃんだ。仮に台風で学校が休みになるとする。この場合、まず相川君のHATOを鳴らすのは担任のマチ子先生である。学校が、今日は台風で休みになることを決めた場合、先生がまず相川君のHATOを6回鳴らす。それを確認したら、相川君は加藤晴子ちゃんのHATOを6回鳴らす。これを出席番号順に続けていき、出席番号38番の渡辺憲君の家のHATOが6回鳴ったら、憲君は先生のHATOを鳴らす。先生のHATOが6回鳴ったことが確認されると、全員に、今日の学校は休みであることが確実に伝わるのである。実にシンプルで簡単でわかりやすい。電話代もかからないので経済的だ。ちなみに6回は、台風で休みになる場合の決まり事で、6が台風の目に似ているからそう決められたらしい。雨で休みの場合は雨模様に似ているから11回、地震の場合は9回鳴らしたあと1分程度間をおいて9回だ。
誰かが勘違いして連絡を飛ばされないように、自分のアプリに登録して良いクラスメイトは、出席番号が次の子だけ。他の子のHATOを登録することは禁止されている。2人以上のクラスメイトのHATOを登録してしまうと、順番を間違えて、連絡が届かなかった子が登校してしまい危険な目に合う可能性があるからだ。ボタンの画像も出席番号の数字を大きく表示したものにすることが義務付けられている。
この連絡網でラッキーなのが、好きな異性が次の順番になっている子だ。その子は普段から、好きな子にHATOを通して想いを伝えることができる。今やもう常識だけど、1分おきに「1回」「4回」「10回」「6回」と鳴らすと、好きな気持ちを告白できるのである。もちろん「愛してる」からきている「1・4・10・6」である。ちなみに朝の挨拶は「0・8・4」。普通、恋の告白なんて小学生にはハードルが高すぎて永遠にできなさそうなことではあるが、HATOを使えば、相手が聞いてるかどうかだってわからないわけだから、ものすごく気軽にできる。実際HATOが世界中のインフラになった理由もこれで、2年前に超人気モデルのmihoがHATO告を実践していることをネットで紹介したところ、誰もがHATOを家に置くようになった。
最近、うちの学校のHATO連絡網に問題が起こり始めた。どうしても自分の好きな子に告白したい子が、校則を破り、告白したい子にアプローチして、ボタンの権限をQRコードでもらうという事件が頻発しているらしい。話しかけるのが緊張する子はハッキングまで試みているようだ。これによりインターネットの技術を猛烈に勉強している子は、プログラミングが神レベルに達している。プログラミング教育を文科省が何度も大失敗している歴史に比べると、こういうことが人間を進歩させるのかなと思う。
いろいろあるけど、うちにはHATOがないため、台風の日は校長先生が電話をかけてくる。貧乏な家なんて大嫌いだ。親なんてクソだ。
HATO小説部
OQTA HATOの小説をみんなで書き、出版を目指す部活です。
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