HATOが見た光景 パート1 (高橋晋平)

僕の名前はHATO。鳩時計の中にいて、ときどき穴から顔を出して鳴いている。なぜかというと。

僕が住んでいる小屋の中ではときどき、突然「おじいちゃん‼」という声が聞こえて、そうするとなぜか穴の中から顔を出して「ぽっぽ」と鳴かなきゃいけない気分になって、それで仕方なくやっている。生まれつきの本能ってやつかもしれない。顔を出すことはそんなに好きじゃない。

小屋の中にいるときは、当然外の景色は全く見えない。腹筋がキツいから、顔を出していられるのはせいぜい1秒くらいで、そのときに外の景色を見ないと、この小屋がどんな場所にあって、外の世界がどんなものなのかわからなかった。時々は「おじいちゃんおじいちゃんおじいちゃん‼」などと、3連続で声が聞こえたりして、そうしたら穴から顔を出したまま、3連続で鳴かなきゃいけない気分になるので、顔を出し続けるのに腹筋がめっちゃキツいけど、その時は割とよく周りが見えたりする。最近だんだんと外の世界が分かってきた。部屋は和室で、ベッドがあったり、お仏壇があったり、ちゃぶ台の上に果物が切られていたりする。そして、しわくちゃのおじいちゃんが椅子にちょこんと座っている。「おじいちゃん‼」という声が聞こえるのはいつも予告もなく突然だから、僕は急いで顔を出して、その瞬間に外の風景を確認しないといけなくて、けっこうな反射神経が必要だ。油断する暇がないので、やっぱり顔を出すのはあまり好きじゃない。

顔を出していない時でも、外の音だけは聞こえる。ここはある一軒家で、しわくちゃのおじいちゃんの他に、おじさんおばさんが住んでいるみたいだ。ある日僕は、小屋ごとこの家に連れてこられて、置かれたようだった。その日は若い男女が何人か来て、おじいちゃんにハトをプレゼントするね、とか話していた。私たちがおじいちゃんのことを想ったら、ハトが鳴くからね、なんてことを言っていた。ハトって言うのは間違いなく僕のことだろう。だから、たぶん「おじいちゃん‼」という声が聞こえるのは、誰かがおじいちゃんのことを想った瞬間なんだろう、と思う。

で、そのおじいちゃんはどうやら、耳が聞こえないらしい。それに、もの忘れも激しいみたいだし、おしゃべりも少ない。ずいぶん年老いていて、おじさんおばさんが一生懸命お世話をしているみたいだ。日頃のおしゃべりを聞いていると何となくわかる。

さっき、誰かからおばさんに電話がかかってきた。おばさんは、「うん、ハトはちゃんと鳴いてるよ。でもおじいちゃんはやっぱり聞こえてないみたい。」みたいなことを言っていた。たぶん電話をかけてきたのは、僕をここに置いていった誰かで、おじいちゃんのために僕を鳴かせていて、それでおじいちゃんが僕の声に気付いているかを確かめたがっているのだと思う。だけどおじいちゃんには僕の声は聞こえない。残念だね、という会話をしているみたいだった。


だけど、僕は知っている。

「おじいちゃん‼」と突然声が聞こえて、急いで顔を出して鳴くときは、周りを見る余裕なんてない。でもときどき「おじいちゃんおじいちゃんおじいちゃん‼」と、3連続の長い声が聞こえて、僕が顔を出して、3回「ぽっぽ、ぽっぽ、ぽっぽ」と鳴くとき、時間が止まったようにゆっくりと、おじいちゃんと必ず目が合う。

で、おじいちゃんはちょっとだけ、やさしそうな目をする。

おじいちゃんには聞こえてる。全部わかってる。

最近僕は、顔を出すのがちょっとは楽しみかも、と思ってきている。もし誰かが「おじいちゃん‼」という声を出す命令をしているのなら、3連続にしてくれないかな、と思う。




1コメント

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  • Kiyohisa

    2018.08.24 12:23

    それでは平井堅さんに歌っていただきましょう、おじいちゃんのHATO時計

HATO小説部

OQTA HATOの小説をみんなで書き、出版を目指す部活です。