間違いない
10年に1度にあるかないか
そのぐらい豊漁の年だ
沖に出てまだ2日目
この震えは、武者震いなのか
いや それは この寒さのせいだろう
こんな生活 いや 人生に
今となって 何を感じるでもないのだけれど
ふとしたときに 寒さと共に やってくる
アイツとだけは 手をつなぐことはできない
マグロの一本釣り漁師生活39年
血には逆らえない
物心ついたときには 俺は海に出ざるをえなかった
俺にだって 六本木ってところで
タワーマンションってやつに住んで
ワイングラスを片手に揺らしながら キレイな夜景を眺める人生が待っていたかもしれないんだ
それがどうだ
この極寒な地で 汗の臭いが充満する船の上で
荒れ狂う波に揺らされて カモメが群がる水面を遠目に探す人生を送っているじゃないか
あきらめろ
DNAレベルで 「漁師」って情報が遺伝子に刻み込まれてるんだから
マグロのDHAってやつは 身体に良いらしいんだけど
このDNAってやつは ほんとに良くない
この39年で
漁師って仕事が好きか嫌いか どうでもよくなる境地に達した俺は
まだ幸せな部類なのかもしれない
二人の娘も授かった
こんな生活を繰り返しているもんだから
娘たちとの思い出という思い出も 思い出せない
幼い頃は 目に涙をためて 俺の出港を見送ってくれたものだが
いつからか 冷めた目で 追い打ちをかけてくるようになったのだ
今となっては二人とも東京で暮らしている
六本木あたりで 変な野郎にそそのかされていないだろうか
そんな奴は冷凍マグロで頭を叩き割ってやる
こうやって不毛な怒りを覚えていると
よくアイツがやってくるんだ
アイツの名は「孤独」だ
マグロを何本釣ろうが 消え去ることはない
突然やってくるときもあれば
物思いにふけったその先に 冷めた目で俺を待ち受けているときもある
ああ そうこうしてたら またやってきた
そう 俺は生粋の寂しがり屋なんだ
娘に会いたい
娘に会いたい
おい お前
黙ってないで なんか言えよ
二人の娘が 「私だと思って」と 今回の出港に合わせて
俺にくれたこの「鳩」
カモメはとうに見飽きているのに
なぜこの期に及んで 俺は鳩と一緒にいるんだ
HATO小説部
OQTA HATOの小説をみんなで書き、出版を目指す部活です。
6コメント
2018.09.18 12:49
2018.08.24 13:03
2018.08.24 12:36